沖縄とG0細胞

きょうは旅行日で向こうに到着してからはいろいろ仕事があるので、今出発前に書いておきます。
研究をしているセンターの所在地の具志川市は最近うるま市と名前が変わって、5つくらいの行政単位が合併したそうです。きょう夜泊まる浜比嘉島のホテルもうるま市になったはずです。夕方にはセンターに着くはずなので、それからたまってる研究上の議論を始めて、明日、あさってと相談したり、議論したりすることがいっぱいあります。沖縄で研究ユニットを始めても最近までは観光的なものはまったくしないでいなかったのですが、この間のメンバーの結婚式のときに便乗してすこし楽しみました。それでも毎月、行ってるせいか、自分の好みというか考えもすこしずつ出始めてます。

でもきょうはそういう話しでなくて、G0細胞ユニットとは何かをちょっと書いておきたい感じです。
G0とは細胞周期用語で、細胞周期がサイクルで細胞増殖をしてるのをコントロールしてるとすると、G0とはサイクルからはずれて、停止して、細胞がそこで一定の分化をしてなんらかの機能を果たしている、そういう状態です。ですから、G0とは、細胞周期停止状態です。多くのG0細胞でははG1期とおなじDNA含量(つまり複製以前の量)を含みます。しつこいようですが、G1とG0の違いはG1は増殖中、G0は停止ということです。G0細胞は増殖はしないがもちろん生きていて活発なメタボリズムもあり一定の細胞機能を果たしている、こう考えます。体の組織の多くの細胞はG0期にあるといって良いはずです。がん細胞はG0から逸脱して異常増殖してると考えられます。
このようなG0細胞がいかにして維持されているか、G0を脱出して増殖サイクルにもどるときにどのような制御があるか、遺伝子レベル、タンパク質レベルできちんと理解したい、そういう課題を沖縄でやってます。生き物としては、分裂酵母をモデル系として研究してます。ただし、遺伝子として新規なG0維持遺伝子もしくは脱出遺伝子を見つけたら、ほ乳類細胞へシフトすることを考えてます。
さて、分裂酵母がなぜG0細胞研究にむいてるかを説明しましょう。
分裂酵母では増殖中の7割以上の細胞がG2期(複製後の間期)にあります。残りはM期やS期でG1期は非常にすこししかありません。
活発に増殖中の分裂酵母細胞中から窒素源を除きます。合成培地で増えますので、培地から塩化アンモニウムを除去するだけです。他の培地成分はすべてあります。
そうすると、培地の窒素源枯渇を細胞は認識してレスポンスとして、細胞分裂を開始します。数時間のうちに2回複製、染色体分配、細胞分裂をくりかえして、分裂直後のG1期で停止します。
この時期はまだG0期にいくかどうかはコミットしてません。窒素源を加えてやると、もとの増殖にもどります。窒素源が無い状態でも接合mating出来る相手、つまり性的パートナーになりうる異なった接合型の細胞(つまり雌雄のちがいのようなものですが)がそばにあればそれと接合して、減数分裂に進行します。
安定なG0期に入るには周囲に性的パートナーがいなくて、なおかつ窒素源がない条件が必須です。G0期細胞の大半はDNA含量が複製以前のG1期相当でこの酵母は半数体が安定なので、1C含量しかありません。G0細胞になるにはその前に急速に分裂を2回もするので、細胞は丸く小さくなって、増殖中の棒状の細胞の3分の1か4分の1くらいの長さしかありません。いっぺんG0になればまったく分裂もしないし、細胞も大きくならないし、生きてはいますが一見何もしてないようです。
良く聞かれるのは、分裂酵母のG0とはstationary phaseみたいなものなのでしょう?と。そうではまったくないのです。出芽酵母のG0と称するものはstationary phaseみたいなものに見えますが、分裂酵母ではまったく異なります。分裂酵母では窒素源のある増殖用培地でそのまま増殖が止まった細胞のDNA含量は2CつまりG2期から停止状態に入ってます。炭素源や硫黄源を培地から抜いた場合でも2Cで止まります。これらの細胞は棒状で丸くなりません。分裂酵母のG0期とは元気に2回も分裂してから、G1期を通過してからG0期に進入するのです。
つまり、またしつこいようですが、分裂酵母のG0期にはいるには活発な増殖可能な細胞が栄養源のうち窒素源をぬいたときだけにおこるのです。面白いし、不思議です。ヒト細胞でのG0細胞が培養液から仔牛血清を抜いたときにおこるのと何か一脈相通ずるものを感じます。
わたくしたちの研究の独創性のほとんどはこの分裂酵母の窒素源枯渇系の生理というかバイオロジーに賭けてるのです。このG0細胞がモデルとして素晴らしいとわたくしは確信してます。
ありがたいことにいまのところ分裂酵母でこの系で本格的にやってるのはわれわれのグループだけです。しかし、出芽酵母では最近われわれと同様な発想で、しかし、生理的にはstationary phaseとしかわれわれには思えない系での研究を活発にやり出してるグループが出てきてます。
同床異夢になるのか、異床同夢になるのかわかりませんが、ともあれ競争相手がいるのは大変よいことです。これからが楽しみです。われわれのグループもかなり面白い結果が出始めてます。
しかし、本当の勝負は5年後くらいと思ってます。

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