DAPI染色法について

今週は忙しかったので、きょうは休養をかねて、畑仕事です。天気も良く、比良山もよく見えて、気分はたいへんよいです。先週植えた苗もだいたいは順調だし、みどりに囲まれていい一日でした。
 クラミドモナスとは、原生動物であり原生生物であり、緑藻であり、ややこしいですね。論文のレビューでも似たようなことありますね。この場合はどれでもいいらしいので良かったのですが、ひとりの意見はこういいなさい、もう一人の意見は、こういってはいけない、と真っ向からぶつかることがあります。昔はわたくしも血気盛んで、いやいや第3のいいかたじゃなくちゃ駄目とか主張したものです。せっかく通りかかった論文が、それでエディターの不興をかって駄目になったこともありました。
 三十台後半ラボを持てるようになって、核分裂の変異体を分離するのに適切な生き物を探したのですが、クラミドモナスはいろいろ条件を満たしていたのです。しかし、葉緑体が邪魔で、どうもよろしくないとやめたものでした。
 蛍光顕微鏡でみると葉緑体が大きくて、余計な発光物となり、核分裂が見えにくかったのです。それに細胞分裂の時間がこういう生き物ではかなり早いのに、せっかちなわたくしには長すぎて、採用できませんでした。しかし、とても美しい生き物です。酵母は泳げませんしね。
 細胞の核DNAを蛍光顕微鏡で見るのに、DAPI染色というものがあります。DAPIとはdiamidino-2-phenylindoleという化合物で、DNAに特異的に結合して紫外線を当てると強い蛍光を発します。この核DNAのDAPI染色による視覚化はわたくしたちが始めたのですが、それほどは認知されてません。知る人ぞ、知るというくらいのところです。わたくしも別にこの程度のことを自慢したくはありませんので。
 ただ、ちょっといきさつを書いておきましょうか。DAPIがDNAに結合して蛍光を発するというのは、LondonにいたDon WilliamsonがミトコンドリアDNAを塩化セシウムで分離するという方法で発表していました。わたくしはそれを見て、蛍光顕微鏡で核DNAを見るのに役立たないかと思っただけのことです。核DNAもミトコンドリアも葉緑体DNAもみな見えましたが。それまではギムザ法というちょっと面倒な方法を使っていたのですが、このDAPI染色なら細胞と混ぜるだけでDAPIが細胞内に入って、すぐDNAが視覚化されるので画期的に簡単となりました。それで核分裂異常の変異体が迅速にスクリーンできるようになりました。
 1981年に論文をだしました(Toda et al., Journal of Cell Science、1981)がいま読み返しても、なかなか渋いいい論文です。
こんなことは書きたくないのですが、出芽酵母をやる一部の連中には旧ソ連のような体質があって、なんでも出芽酵母で最初にやったのを世界最初という傾向がつよいのですが、われわれのDAPIの始めての利用はそれなりに当時はかなりのインパクトがありましたから、さすがにクレジットをねじ曲げる人間は出ていないようです。ただ分裂酵母が最初というのを認めるのはいやなのでしょう、決してわたくしたちのこの論文を引用しません。
関係のない、他人が見ると、どうでもいいような話しでしょうが、似たような話は沢山あります。遺伝子破壊を最初にやったのは出芽酵母を使ったRodney Rothsteinですが、他の生物で遺伝子ノックアウトを最初にやったという論文でこのRothsteinの論文を引用するケースは少ないです。生物が違うだけで方法は基本的に同じなのですがね。Rothsteinにはもちろん不愉快なことでしょうが、どうにもならないようです。

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