今日は一日休みをとりました。
有給休暇なるものをとった記憶がなかったのですが、定年になってからは何度かとっています。違ったリズムの生活なので、休暇もとるべしとおもってます。
刈り払い機で草刈りしていたら、とつぜんトンボが棒の先端に止まりました。動いてる刈り払い機のしかも高速回転中の円盤ノコギリの軸の部分に止まったのだから驚きです。たぶん草の匂いに誘われたのでしょう。よく見ると間違いなく、ギンヤンマ、見事な色でほれぼれと、しばらく見ていました。さすが、円盤には巻き込まれず、素早く飛んでいきました。数はすくないけれどどこかヤゴが生息する環境があるのでしょうか。この庭の池だったら素晴らしいのですが、たぶん違うでしょう。このあたりの水田はもうため池を作らないので、水生昆虫にとってはコンクリートで固められた川とあいまって、非常に住みにくい里山になってるはずです。琵琶湖があるのが唯一の救いですが、それでも湖岸は生物には非常に住みにくい環境になってると思われます。大きなトンボが乱舞する里山が復活しないかなあ、そのためにはまず水場の広がりが必要だなとおもうのです。
きのうC誌に論文が一つ公表されました。この研究の内容について前に書きたかったのですが、公表まではマスコミにおいて発表してはいけないとかいう取り決めがこの雑誌にあり、この仕事は世間レベルではいかなるインパクトもありえない超地味な研究なのですが、いちおうこの間おとなしくしてました。しかし、もう2か月以上も論文が通ってから経ってるので、公表時点である今となると気の抜けたような感じで、あまり熱が入った書き方が出来ないのが残念です。やはり、感情が高まったときに書くのが一番いいに違いないのです。
この論文では細胞内でのタンパク分解の相当部分を引き受けているプロテアソームという複合体(昨年のノーベル化学賞はこの分解の仕組みに対して与えられました)、が細胞の核内にいかにして局在できるのか、という仕組みを探る研究をして、非常に面白い結論を引き出しました。ユニークな仕事でした。
TK君は、学位論文をK大理学研究科に提出してその審査が月末にあるのですが、彼の学位請求論文の根拠となる公表論文です。著者は彼とわたくしだけですので、すべてのデータは彼が出したものです。2年前にはラボ内ですらかなり地味めのテーマでしたが、TK君の奮闘でかなり面白い話しになりました。
大分前にUT君を主人公にしてCut物語というのを書きましたが、TK君のやっていた仕事はCut8遺伝子というものですので、関係があります。
わたくしの研究室での一連の研究では、染色体が娘細胞に正常に分配されないような突然変異体をまず分離して、その遺伝子を分離し、遺伝子が作るタンパク質の働きを調べて、そのタンパク質がいかにして染色体分配にかかわるかを調べてきました。
cut変異体と呼ばれる一連の変異株はいまは米国でラボをかまえるHT君が修士の学生の時に分離したものですが、その時のアイデアはUT君の分離したDNAトポイソメラーゼII (topo IIと略称します)が欠損した時の細胞の性質と似た変異体を分離しようというものでした。20年くらい前の話しですが。HT君はcut1からcut9という番号の変異体を分離しました。これらはtopoII変異と共通点のある表現型という性質が似ていて、核分裂が欠損して正常に起きないにもかかわらず、細胞質の分裂がおきるようなものでした。それでcell untimely torn (cut)と名付けたのでした。
1986年にEMBO Jに公表しましたが、その後営々と努力して、これらの遺伝子とタンパク質の働きをひとつひとつ詳しく調べる仕事をやっておりました。7,8年から10年でほとんどの遺伝子について働きがわかり、中には同業者を相当驚かせるようなかなりハイレベルの成果が上がりました。ほとんどは高等生物つまりヒトにもあるタンパク質となりましたが、今回の論文でのCut8だけはまだヒトにあるかどうか分からない遺伝子です。
参考までに、Cut1からCut9までのタンパク質の機能を現在のの知識で書きますと、
Cut1 セパレースと今では呼ばれ、染色体合着に必須なコヒーシンRad21を切断するタンパク分解酵素
Cut2 セキュリンと呼ばれ、サイクリンと同様な機構で分解する。セパレースと結合し、阻害と安定化の両方機能あり
Cut3 コンデンシンSMCサブユニット 染色体凝縮に必須なタンパク質
Cut4 APC/サイクロソームサブユニットでセキュリンの分解に必須
Cut5 DNA複製に必須で、複製チェックポイントにも必須
Cut6 アセチルCoAカルボキシラーゼ 変異体は核の不均等分配を引き起こす
Cut7 キネシンモーターで紡錘体形成に必須
Cut8 プロテアソーム核内局在化因子、今度の研究の対象
Cut9 APC/サイクロソームサブユニットでセキュリンの分解に必須
どれもいまでは、染色体分配必須因子としてかなりよく理解できるようになりましたが、変異体分離当時では、院生の間では、cut変異体は未来のない変異体と思われていて、これをやらせられるのを避けようとするのが多かったものでした。致し方ないのですが、実際には今から思うと、最も面白い変異体の一群でした。当時英国からきたIH君がCut変異体は宝石と言ったのですが、かれの勘はまったく当たってました。
明日にでも、もうすこし詳しく、今回の論文の紹介でもしましょうか。