わがやでも民族大移動が起こって、にわかに静かになりました。夕刻、次男と妻と三人で京都岡崎あたりまで遠出して、晩飯。そのあと、四条河原町近辺でコーヒーを。帰りは五条から湖西道路で渋滞なし料金なしで50分ちょっとで帰着。時間的な近さに改めて吃驚しました。次男の友人のドイツでの結婚式の話しを詳しく聞いて、結婚式そのものの面白さよりも、次男の社交性の成長ぶりに驚き。それにいまは長崎で医学を勉強してる、AH君にも最近会って、いろいろ面白い話しをしたとか。
それはさておき、Cut8の話しが宿題でした。(Cut物語その3となっているのは、8月12日ブログがその2です)
わたくしの研究室の研究の方向性は染色体分配が主たるテーマですが、実際のところ、どのような遺伝子の働きを研究するかは、遺伝子まかせというか、遺伝子次第でどうなるかまったく分からないというのが正直なところでした。変異体がたしかに分配異常を示すからには、なにか大切な働きを染色体分配でやってるに違いないという、信念に近いものを変異体の性質(表現型といいますが)にもっていかざるを得ないのです。
Cut8はその点、なかなか難しいものでした。表現型はセパレースやセキュリンのCut1,Cut2とよく似ていましたが、タンパク質のアミノ酸配列を見てもにてるものはなく、何をやってるかの手がかりを見いだせませんでした。
いまは米国西海岸でポスドクをやっているTH君はこのCut8タンパク質が欠損するとセキュリンやサイクリンのM期後期における分解速度が著しく遅くなること(五分の一くらいに)を見つけました。さらにその遅くなる原因が、ユビキチン化されたセキュリンやサイクリンを分解するプロテアソームが核内から蓄積されなくなるのだということを見つけたのでした。つまり、Cut8は核内にプロテアソームを蓄積させる因子だと言うことを見つけたのでした。実際のところ、Cut8は核膜に富んで存在していました。その生理的必要性は分からなかったのですが、Cut8はユビキチン化されて壊される短命タンパク質でした。
これがTK君がCut8を始めたときの状況でした。一部の研究者には関心は持たれたものの、いわゆる玄人好みのテーマだったことは間違いありません。
今回の研究で分かったことは、プロテアソームの核局在はCut8の上流にユビキチン依存分解制御に必要なRhp6とかUbr1という酵素が関わっていると言うことを見つけたのでした。Cut8 そのものは間に介在して、その一部は核膜にたいして「錨(アンカー)」のように働いて結合し、別の一部はRhp6やUbr1によってユビキチン化されてその結果プロテアソームと結合できるという大変都合のよい性質を持っていたのでした。図でこの関係を示しておきます。
ですから、Cut8が無くなるとRhp6,UBr1というユビキチンをCut8に結合させることが出来ないので、プロテアソームは核膜ひいては核に富むことが出来なくなります。
分かってみれば単純なストリーですが、よく考えれば面白い問題が沢山あります。
なぜCut8は半減期が3分という短命タンパク質なのか。
そもそも核内でユビキチン化されて壊されるタンパク質にはどんなものがあるか。なぜRhp6 (出芽酵母ではRad6, ヒトにもよく似たタンパク質があります)のような放射線感受性を引き起こすようなubiquitin conjugating enzymeがかかわるのだろうか。セキュリンやサイクリン以外にも沢山のタンパク質が核内でユビキチン化後に分解されています。実際にCut8変異体は間期で放射線に超感受性を示しました。そういうわけで、プロテアソームが核に富むためにはCut8のようなアンカーとセンサーのような役割を持つタンパク質が必要らしいのです。
Cut8がセンサーと言ったのは、Cut8が沢山ユビキチン化されてるとプロテアソームがそれに結合して核膜に富むという仕組みなら、結局核内にプロテアソームがあればあるほど、Cut8は高度ユビキチン化されて分解もされやすくなります。一方でプロテアソームが核内に少なければ、Rhp6等がそれを認知してユビキチン化されやすくなるのではないかというものでした。
このようなストリーをTK君が展開してくれたわけです。染色体分配そのものの仕組みに肉迫するものではありませんが、染色体分配のための細胞内環境を整える仕組みという点で、とてもユニークな研究成果だと思っています。
TK君は沢山エピソードがありすぎるのですが、かれはわたくしに色々書かれるのはたぶんあまり嬉しくないだろうし、このあたりでやめておきますが、Cut変異体が20年前に分離されて以来、Cut1の論文がUS君を筆頭著者としてC誌に発表されたのが1990年ですから、15年経っても、まだまだ研究室の伝統的なつよい分野であることを示してくれた点でわたくしは喜んでいます。