経済同友会の代表が小泉首相に靖国を参拝しないように要望して、その代わりに戦争で亡くなった人達全員を追悼するようなものを作ったらどうだろうと、提言したようです。もちろんこういう提言はこれまでも何度も何度もされてますが、ポスト小泉を選ぶ時期に入ったこともあり、また中国との関係もあり、メディアは割合大きく取り上げました。さすが、小泉首相は間髪を入れず反論をしました。いわく、「靖国参拝は商売の邪魔になるから、やめてくれとよく言われるが、そういうものではない」(正確な引用ではないのですが)とのことです。ここで注目すべきは首相は商いとか商売とか言う言葉を意図的に使ってることです。ビジネスとか日中間の経済的関係とかそういうのでなく、商いをするのに邪魔になるという意図で、この経済同友会の発言があったのだと、断定していることです。この発言は、メディアにあまり評判はよくないようですが、しかし日本国民の一部の中には頷く人達が相当いるはずです。
まず経済同友会の発言が商売以外の意図でなされたものかどうかですが、そのあたりは意見の分かれるところですが、相当多くの日本人はそれ以外の意図で発言があったとは思っていないでしょう。しかし、日本国が中国とますます外交関係が悪化するのは困ると思ってる人は沢山いるし、中には切実に改善を願っている人達もいるので、意図はどうであれ、発言自体は結構であると思う人も多いでしょう。
しかし、一方で、首相の言うことはまったく当然、こういうレベルの事柄に商人の関心でものを言われては困ると、まあそこまできつくなくとも、それに近い考えの人達も多いでしょう。
こういう考えの違いの分布を日本の地理の中で見たらどんなふうになるのか、興味があります。いまの日本は首都圏、名古屋地区、京阪神のような大都市とそれ以外の地方でこのような問題ではっきりと意見の分布の違いがあるのか、それともまったくないのか、どうなのでしょう。興味があります。
数日前にわたくしは、日本の国論は武に傾く傾向があることを述べました。日本の場合は武といっても十字軍のように悪を懲らしめるという分かりやすいものでなく、なんらかの理念で毅然として居なくてはいけないのでしょう。武士道は決して容易に単純化出来ませんが、倫理観の強いものです。三島由紀夫の決起の言葉もその一例です。最近流行っている藤原氏の著書にあるように品格を持った士になることを願う人達は多いでしょうがなかなか難しいというのがわたくしには正直なところです。
小泉首相が靖国神社に行くのは、外国特に中国から見たら挑発になるのでしょうが、国内ではまるでかれが我慢に我慢を重ねているかのような印象を与えているのですから、大変な違いです。わたくしは、小泉首相はあきらかに士の側に立って政治を行なおうとしていると思います。
感動した!などと叫ぶことからも気むずかしくない士のスタイルをとってるようです。江戸時代の頃なら大衆的人気のあった徳川将軍のような役割を演じているような気がします。戦後の首相の中では、女性と若い人に人気があったということで、一番なのではないでしょうか。
一方で商の代表的首相は誰かといえば、池田勇人首相でしょう。この人は貧乏人は麦飯を食えと言ったとかで揶揄されましたが、所得倍増計画を掲げて国民の生活を向上させたことは間違いありません。惜しくも喉頭がんでなくなりましたが。戦後唯一の京大での宰相でもあります。池田首相なら、中国に言われなくとも、靖国参拝はA級戦犯が合祀されてしまえば行かなかったでしょう。経済的発展のためには命をかけるような気迫があったのではないでしょうか。
日本は中国に対して、商でいくのか、士でいくのか、どちらにするのかたいへん難しい選択のようです。小沢民主党代表ももちろん根は士ですから、そのあたりは小泉首相と似ています。いまの四人の自民党の候補の中で、商の側に立てる人は一人もいないような気がするのですが、しいていえば、麻生外務大臣かもしれません。一見タカ派のようで、首相になれば一番のハト派になるかもしれません。池田首相もなるまでは右翼とか言われてましたが、実際には違いました。福田、安倍両氏はしょせん士の方だと思います。もうひとりの谷垣候補はよくわかりません。商でも士でもなく、温厚にして有能な官僚だと思われます。ただ、福田氏がなれば中国との関係を劇的に良くするかもしれません。そんな気がします。ただ、国内がそれで治まるかどうか。
貧乏でも我慢できるのは、士の心が満たされていればでしょう。日本では自分は貧乏だと思う人が毎年増えてますから、こういうときは「軟弱外交」と非難する声は大きくなりがちです。
現在の、中国と日本の関係は日本側が商に徹するのはほとんど不可能なくらいとても難しいのですが、一方で中国歴史観ドクトリンに対して丁々発止対抗できる士も居るようには思えません。たいへん困った難局です。
日本のどこかにこの難局に対応できるすごい「大駒」が隠れていないでしょうか。
きょうは結局始めから終わりまで床屋政談になってしまいました。すみません。