説明責任が発生した、JSTの戦略研究事業

戦略的創造研究推進事業(CRESTタイプ)なる研究費がありまして、科学技術振興機構(JST)という文部科学省系の独立法人が毎年募集しています。全国の研究者が注目するのは、これがある意味でだれもが申請できてあたれば五年間にわたってかなり潤沢な研究費を使って推進できる、国内ではほかには他にはひとつしかない研究資金だからです。
しかし、この事業はもう一つの文部科学省の特別推進研究と異なって、応用色の強いものです。つまり、「社会・経済の変革につながるイノベーションを生み出すシステムの一環として、戦略的に重点化した分野における基礎研究を推進し、今後の科学技術の発展や新産業の創出につながる、革新的な新技術を創出することを目的としています。」と趣旨にかいてあります。そういうわけで、応募したくても、研究領域がとうてい応募できないものであることが多いのです。それでも数少ない公開公募の研究資金なので沢山のひとが応募するのです。
実はわたくしの京都大学での研究費もこのタイプのものですから、もちろんその趣旨を承知して、それレベルで評価される、ことも十分に認識しています。

今年度のがきょう発表になりました。
生命科学関係では、はっきりしたのは2つしかありません。
代謝調節機構解析に基づく細胞機能制御基盤技術と生命システムの動作原理と基盤技術の2つの領域です。前者が49件、後者が97件、応募があって、それぞれ4件ずつしか、採択されていません。ため息がでるような、倍率の高さです。
非常に多くの優れた研究者が時間をかけて申請書類を作って応募してこの結果です。科学技術立国とかいいますが、じつはもっとも優れた研究をする可能性があるグループがこのようなとてつもない競争率にあえいでいるという事実がるのです。
それをしったら、わかい人達はこのような分野にやってくるでしょうか。
こなければ良かったとおもう若い研究者が増えているのも、色んな大学のトップクラスの研究者が研究費であえいでいる実態を見ているからです。

今年度は536件の応募が12の研究領域にあったのですが、うち53件が採択されたと発表されました。
内訳を見ると、妙なことに気がつきました。
ひとつの研究分野はわずかに5つの応募しかなく、採択はゼロでした。
実用化を目指した組込みシステム用ディペンダブル・オペレーティングシステムという領域でわたくしにはなんのことか分かりません。
情報システムの超低消費電力化を目指した技術革新と統合化技術とディペンダブルVLSIシステムの基盤技術という2つの領域では、それぞれ10件と8件の応募しかなく、採択件数はそれぞれ4件ですから、40%、50%という高率で採択されています。良かったですね、ラッキーでしたね、ですむ話しでしょうか。
これは、ひとことでいって、これら3つの領域には領域の設定に問題があったと考えることも可能です。
わたくしには分かりにくい分野なのですが、それなりに調べて分かったことは、企業の研究者以外にたぶんやってる人達があまりいないような領域ではないのか、ともおもえました。
応募がこれだけ少ないのは、ある意味で最初からそういう研究をやっている人の当選率は高いので、なんらかの癒着があったのではないかという疑いが湧いてきます。実は、大学教員の人事でも極端に研究分野を制限すれば候補者は一人になってしまうという事態がありうるのです。研究費も同じです。領域を極端に限定するのは、領域設定者、領域責任者に説明責任が発生します。
そもそも採択件数がゼロなどは、領域設定に深刻なエラーがあったと言わざるをえません。いわゆる「責任者でてこい」、状態でしょう。日本中、研究費でみんな悩んでいるのです、こんな馬鹿げた話しがあっていいのでしょうか。
これまでのJSTの領域設定にはいろんな噂がありました。
今年の結果はひどすぎます。
かなり深刻な事態と私は個人的におもいます。領域設定が恣意的でないのか、癒着がないのか、研究費の額は大きいのですから、今回のような事態には徹底的な説明責任があると私には思われます。
そうでないと、生命科学のような分野から見れば、わが国は他の根拠の乏しい領域を設定することにより、そのぶん生命科学領域のような国家にとっての根幹的な分野を飢餓状態にして、この分野のトップクラスの研究者の大半を絶滅させたいのか、と言いたくなります。

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