飢えと絶食による死、京大で40年間の奉職

わたくし最近買った携帯は前のものよりひんぴんと見るのは、ウエブにすぐつながるからです。新しいメールアドレス複数の人からつながらない、拒絶されますということでした。原因はすぐ究明されました。yanagida.mitsuhiroとこのブログのように名前を入れるのですが、mitsuhiro.yanagidaに違いないという先入観で記していたのでした。

61才と63才の姉妹が餓死したという痛ましいニュースです。高齢者の女性は収入が途絶え貧困になると非常に弱い社会的存在になると聞いたことがあります。この方たち、餓死したときにわずか30キロしか体重が無かったとのことです。電気もガスも切られ、水しか体に入れるものがなく,出ることを強制されていたアパートの一室でほぼ同じ頃に亡くなられたとのことです。そこに至るまでのお二人と近隣の人たち、知人、親族、それに退去をなんども宣告に来た執行人、誰かを責めるのでなく、詳しく検証して欲しいものです。それが亡くなられたお二人にとっても意味があることでしょう。決して特殊な出来事でなく、限りなく未来的な出来事だと思うのです。親が死んだあとに残された,若者たちや子供たち、彼等に起こらないといえるでしょうか。

わたくしも実は餓死の専門研究者なのです。ただ、餓死するのは分裂酵母という単細胞なのですが。餓死のしくみというのはこういう生き物でもそんなに分かっているのではないのです。いま投稿中の論文、チェコからきたTP君が筆頭著者の論文のデータの一つをここで述べておきましょう。
この分裂酵母細胞を普通の栄養分たっぷりの培地からグルコース(糖の一種)だけを除去した培地に移しますと、2時間くらいで細胞内にあるいろいろな大切なエネルギーに必須な代謝産物が急激に減少します。これがほぼゼロになってから十時間もたつと、絶命してしまいます。つまり栄養たっぷりな培地に戻しても生き返らないのです。ところが、グルコースゼロでなく、ごく微量、つまり栄養のある培地のグルコースの100分の1まで減らした飢餓状況にわずか数時間さらします。そのように短時間飢餓にさらしてから、絶食というかグルコースゼロに移すとなんと2週間くらい生きているのです。つまり飢餓に短時間でもさらせば、急激に絶食に移す場合と較べて寿命は20倍くらい延びるのです。この現象を細かくメタボロームという解析法で寿命がいかに延びるかを調べています。どんな物質が飢餓によって生じて来るのか、調べています。とても興味深い研究なのです。こういう研究は医学系の方は興味を持って聞いてくれます。寿命に興味をもつかたは、ぜひ飢餓にも興味を持って欲しいものです。
人間でも似たようなことになるのか、実験は出来ませんから、分かりません。でも案外絶食道場にいたことのある人とか比叡山のお坊さんの長期絶食体験者の追跡調査をするといいのかもしれません。

さていよいよ京大の研究室の閉鎖が近づきました。石をもて追われる,というようなことはまったくないのですが、かといって誰からももっといて欲しいとも言われず、当たり前ですが、たんたんと閉鎖の準備、実際には実に沢山のことがあります、これらをこなしています。中小企業の親爺さんが会社を閉鎖するときに感ずる寂寥感と似ているのではないかとおもいます。なんと区切りがいいことにわたくしは1971年に30才で京大理学部の助教授になりましたので、40年間、奉職(古い言葉ですが)したことになります。いろいろな記憶がときおり走馬燈のように駆け巡ることがあります。大抵は近所を歩いたときに記憶が戻るのです。あんた運がいいじゃないか、とか露骨にわたくしの前で平気で言う若手の先生もいますが、わたくしは返事をせずに昔の京大の先生は黙ってみんな見過ごしてくれたもんだと、心で返事しています。

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