わたくしが最近しきりに講演などでしゃべっているのは、人間の老化と長寿をいかに研究するか、研究できるか、というものです。
ちゃんとやろうとすると、一般的にはなかなか難しいテーマです。理由は、人間を直接対象にした観察はできても実験は出来ない、ということと、テーマ的に研究費がなかなかもらいにくい、つまり人間の老化とか寿命は研究費的に難しくて人気がないのです。
もう十分長生きすぎるという若者の意見も聞けそうですし、また老化も長寿も病気じゃないというものです。前者については、だからお国に迷惑も負担もかけない年寄りにいかになるか、それなら大切でしょと言うものですし、後者については、同じような理屈で病気じゃなくても、国家財政に負担がすくない高齢者と長寿者になるための研究は非常に大切という返事をしています。
それでわたくしの狙い目は血液のなかにあるメタボライトつまり低分子量の物質です。そもそも血液とは体の中を循環して有用・栄養・滋養物を運び、使用後・廃物などを体外に出すために役立ちます。脳とか手足の筋肉のエネルギー供給は血液によって行われていることを考えれば、そこにあるアミノ酸や糖や核酸のもとの塩基や脂質の量や組成に年齢が反映しないはずがありません。寿命や長寿だって、血液のなかの有用・栄養・滋養物とその使用後成分をしっかり見れば本当は見当がつくはずです。そんなこと、わかりきったことという読者もいるでしょうね、つまり病院でやる血液検査のことでしょう。そうなのですが、血液のメタボライトのごく一部しかいまは調べてないが、もっと網羅的にやればいまよりはるかに桁違いにいろいろなことが分かるのではないか、と言うものです。
しかし血液ですこし面白そうなことがわかっても人間では実験が出来ないじゃないか、という意見もあります。
その通りです。ネズミの血液で研究したらいいのではないか、誰でも考えます。しかしわたくしは長年の研究の友達である酵母菌、つまり分裂酵母を使って研究しようと言うものです。このメタボライト実は細胞のなかにどれがどれほどある、という類の情報が非常に乏しいのです。
それでこれまでそのあたりを注意深く研究してきているのですが、メタボライトは千種をくだることはない、二千や三千くらいあるかもしれないのです。驚くことにそのごく一部しかいまは同定出来ていないのです。つまり役割のごくごく一部しか理解できていないのです。そしてすくなくともそれらの一部は細胞の寿命というか長寿物質と呼んでいいものなのです。これらのことプロというか同業の研究者のあいだででは認識を共にしています。
それではどうしたら自分のラボの研究をユニークなものに出来るか、わたくしの考えは人の血液と分裂酵母のメタボライトで細胞の長寿や老化に関わる共通なものを見いだして、2つの生物間で並行して研究すればいいと言うものです。実験は分裂酵母を使えばすっきりできます。ヒトではできませんが、いろいろな人たちの血液を頂いて調べれば、比較推測ができます。酵母はネズミなどよりは、圧倒的に分析容易な生き物ですし、やりやすい
しかし、人の血液と分裂酵母ではあまりに違いすぎるのではないか。
そうかもしれません。でもこれだけの生物の種を越えて、それでも細胞の寿命や老化に共に効くのなら、ホンモノであるに可能性がたかい、こう考えます。長寿というのは人間だけの特権ではありません。
わたくしはモデル生物で長年ごはんを食べてきた研究者ですから、こういう点でいい加減なはなしはしません。信じてもらって大丈夫です。
ここから先のわたくしの話を聞けば、説得されかつ感動するかもしれません。
まあ自己宣伝ですが。
さて時間がもうないので今日はやめますが、もうすこしだけ書きますと、こういう考えの根拠は赤血球の寿命と分裂酵母細胞の寿命決定の仕組みは意外に似ているのではないか?だから赤血球を詳しくしらべたい。また血液がサポートする脳細胞や筋肉細胞のいのちと抗老化のためのメタボライトは酵母からヒトまで共通に存在するのではないか。
研究室の若い人たちには、それらの未知の長寿物質はあなたたちに発見されるために目の前にあるのではないか、と言っているのですが。
そこから先はわたくしにもまったく予想のつかない世界なので。