二十年選手のライブドア社長

ニッポン放送の経営支配をめぐる、ライブドアとフジサンケイの株買い占め(表現古いのかな、たぶんMAとかいうんでしょうね)による激しい競合衝突が世間の多大な関心をかちえている。わたくしも人並みに、この堀江さんという青年事業家の顔や話を随分の回数見たり聞いたりしてしまった。実は、去年野球経営に名乗り出た時のドタバタで、どんな事業をやってるのかと興味を持って、この人の著書を一冊読んでしまった。今回の買い占め事件の前のことなので、今回の一連の出来事について、ご本人が何を考えてるかについて、予備知識をすこしだけ持ってフォローすることが出来た。
ひと言で言えば、このホリエモンというあだ名のついた人は若き成功者であり、そして使命感をもって自分の考えを世間に伝えひろめたいと、思ってるらしいことである。この人の本を読むと、プライベートなことも含めて経営の実態をかなり赤裸々に書いてあるので驚く。普通経営者はそんなことは決して言わないものだと思っていた。本音は知らないが、その正直な発言のスタイルに若者を中心に支持が高いことは容易に想像できる。
金があれば何でも出来るとかいうのは、ご本人による誇張的な表現なので違和感はあまり感じない。これだって、世間の庶民はお金持ちはみんなそう思ってるに違いないと、感じてるのだから、堀江さんは正直でいいじゃないか、とむしろ彼の人気の源になってるのかもしれない。日本のお金持ちで、尊敬されてる人なんていまは数えるくらいしかいないでしょ。大会社の経営者で人気があるのは誰かいるのかな。それより、野球の松井とか新庄選手のタイミングのいい寄付行為に世の中をリードする人物像を感じてるのが世間の流れでしょう。

わたくしが言いたいのは、堀江さんは若いけれど、経営者としては10年間は経験があるということ。徒手空拳から事業家としてスタートしてるので、その10年間の企業としての拡張経験はたいへんなものでしょ。10才くらいの小学生の頃からコンピュータにのめり込んで、20才くらいで事業を興して社長さんになってるのだから、ある方向の事業を志してから、もう20年もたってるわけ。だから、彼を30そこそこの若者と甘く見てはいけない。

年とってる人達が彼を侮ったような批評をしてるのを随分聞いたけれど、どうなのかなというのが正直なところ。将棋や碁の世界でも10代の終わりの頃には10年選手なので、30才の頃には勝負師として練達の手練れ、海千山千になってるはず。人を年齢で判断してはいけない。いかなる状況で何年過ごしたかが問題。

研究の世界では、大学院が5年、ポスドクが短くて3年から長くて8,9年の経験で、研究室主宰者になれるのが望ましい経歴である。ポスドクを何年やっても、研究室経営のことは分からないので、練達の研究室経営者になるのは早くても45才くらいだろう。日本では平均的にはさらに遅くて、大学教授になる年齢が50才では練達経営者になるのはとても難しい。せっかくの研究成果をあげてるのに、日本の立派な研究者が欧米の若手研究主宰者にいいように手玉にとられてるのをみかけて残念に思うことは多い。独立できるだけの人間的力量があるのなら、独立は早いに越したことはない。

わたくしの体験では、経歴の未熟なうちにまた事業の規模が小さいうちにたくさん失敗をするのがいいようだ。
負けないように硬直した態度をとったら駄目なことはわたくしも痛いほど経験してる。相手側の立場に立っての解決策を考えてみるのが、いくさの術の本道か。
研究室主宰をしてわたくしも長いが、研究に没頭しながらも、折々に「いくさ」をせざるを得なかった。気持ちとしては,自衛のためのいくさなのだが。しかし、いくさなしにことが済むものではない。

この堀江さんのライブドアのしかけてるいくさは自衛にはまったく見えない。彼の野心と使命感なるものを実現したいためのものなのだろう。それがどのようなものか、いまはまだ見えてないので、それが見えてきて始めて真の意味でのこの人に対する評価が可能になるのだとおもっている。

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