二日目、民主党政府の研究費政策と1強100弱問題

400人以上が参加したとのこと。海外組が多数ですから、しゃべっているうちに自分が東京にいることを忘れてしまいます。同じ酵母という名前がついていても出芽酵母主体の国際会議の雰囲気とはかなり異なります。分裂酵母では昔ながらの遺伝学や細胞生物学を基盤にした研究をする人たちが多いからではないでしょうか。古きよき時代、という言葉がまだなんとか生きている分野です。昨年のトロントの会は出芽酵母の人たちが圧倒的に多かったのですが、先端装置を使って大量データを得るシステムズバイオロジーというのか synthetic biologyとかそういうものが非常に多かったので研究者の顔つきや挙動がこことはちがうのですね。

民主党政府の政策で注目しているのは、科学技術総合会議をどう運営していくのか、麻生内閣の時のメンバーがどんな風に変わるのか、そのあたりをみれば分かるような気がします。
官庁ごとにばらばらに出しているので、悪名高かった環境ホルモンの時はいくつもの省庁が似たような研究費を出していました。現在ではiPS細胞といえば泣く子も黙るのであちこちでばらばらに立案されて研究費が出てきて、関係ない研究者は指をくわえてみてるだけです。
わたくしが現在頂いている研究費はJSTの通称「戦略」とか「CREST」というものです。この戦略のテーマ選別がとかくの話題になるのですが、誰が決めているのかはまったくわかりません。
トップダウンで決まるというのですが、誰がトップでどう決めるのか分からないのです。
大抵は科学技術総合会議で総花的にいわれたことが選ばれているのです。
この会議はこれまでの自民党政府では大切でした。でもこれからはどうなるのでしょう。
1500億円近くの国家予算を使うJSTがなぜ国家として必要なのか、わたくしの周囲のだれもちゃんと説明出来ません。
研究費としては文科省の特別推進研究と類似しているのですが、こちらはJSTと異なってボトムアップです。
われこそはと誰でも応募できるのです。科研費の多くは基盤と言って、だれでも応募できるのが一番大切です。
分野を定めているのでも、研究者が自主的に応募して、厳しい競争をくぐり抜け最後は審査会での口頭での説明をして高い評点をえる必要があります。
それに対してJSTのほうの選定方法はとくにテーマの選定がはっきりしません。
応用偏重としか思えないのです。この研究分野がなぜ、どのようなプロセスできまったのかわれわれに分かるように説明してもらえるといいのですが。
自分でJSTの研究費をもらっていて批判的なことをいうのは気がひけますが、でも研究費は研究者の死活問題なので、だれだか分からない人たちが特定分野を戦略と称して国家的に推進するのはやはる解せません。

ユニクロの一番えらい人が日本で一強百弱だったのがいまは世界の一強百弱のなかの強をめざすと言ったとか。本当はどういったのか知りませんが、でもその「気分」は分かるような気がします。グローバルになった今の時代の気分を示しています。
いま基礎生命科学分野でトップクラスの研究者になるということは、もちろん世界標準でしか意味がないし、それにはかの御三家のジャーナルで発表するしか意味がない、これがしのぎを削る人たちのあいだでの、気分のようです。それを否定するのに勇気がいるようです。
この1年か2年のあいだに御三家に二つ三つ論文をだして反響があれば研究費に関しては安全圏でしょう。これはどこでもどこの国でも今や同じでしょう。しかしそういう人は滅多にいませんから、まさに1強100弱なのです。
どこの大学も研究所も研究費は大変ですから、研究者のお尻を叩きたい人たちはなんでもいいから御三家に論文を出せ、さもないとあなた失職するかそれとも研究費は激減しますよ、こういうことを場合によっては露骨にもしくは婉曲にいわれているのが今の時代の気分なのです。それに抵抗するのは難しいので、強の道をめざさないなら、声をひそめて次の次の時代の研究課題をやれる場所を探すのがいまを生きぬく最良の知恵だとわたくしは思っています。そのためには飢餓にも耐えなければいけません。

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