昨日の続きですが、どういう理論的生物学の分野があるのか、ちょっと私見を述べておきましょう。
やはりDNAの近傍が理論をやるにはまだまだやりやすい。DNAは個々の生物の全能力をなにかのかたちで伝えているはずなのです。それにこれから大発展するであろう進化生物学の周辺ですね。
理論家になる準備に必要な論文の多くを読むための基礎的な分子細胞生物学の知識が不可欠。でもこれを取得するのはいつでもどこでも一年くらいで簡単にできる。理論の研究をする時期まではほんとに基礎中の基礎的なDNAや遺伝現象が理解出来るくらいでいいはず。
Bioinformaticsと言われる情報科学の実力がどうしても必要。ゲノムDNA配列の決まった生物種のデータベースが猛烈な勢いで増えているのですが、これらはかならずしも世界でまとまって維持されてない。保存のされかたもまちまちなので、理論をやりたいひとは、これらのデータベースを自分で換骨奪胎して好きなように扱い使えるためのコンピュータ上のスキルが必要と思われます。今後ますますデータ量が増えるでしょうが、それでも地球上にいる生物種のなかでは微々たるものでしかありません。これらのデータをタイムマシンとして過去にさかのぼっていく過程で生まれてくるはずの理論はわたくしなども興味深々でいます。
次ぎに、有機化学的な分子科学の能力ををかなりこなれた感じで持っている必要を感じます。この能力を持つのは青少年期では至難と思われますが、どこかにチャンスがあるかもしれません。数学と有機化学は若いときにしか頭に入らないと昔から良く言われていました。わたくしも最近生体内反応を理解するために色んな化合物の反応を頭に入れようとしているのですが、ほんと苦労しています。一瞬にして数十手先を読むような感じで化合物の可能な反応が見えるといいのですが。将棋や碁の世界に近いのかもしれません。
タンパクや核酸の構造生物学の知識は年をとってもいくらでも学べるので、また直感的に理解もしやすいので自分のスキルとして最初から持っている必要はない。
三つ目は生物多様性についてなにか一つ耽溺するような経験が子供の頃からずっとあるといいですね。生き物のある生活をしたうえで、夢中になれるものがあったら、それを思い切り伸ばしてほしい。昆虫少年は掃いて捨てるほどいますから、なんでもいいですキノコでもトリでもサカナでも、やはり植物に強いとあとあと非常に違う。
と言うわけで、情報科学、有機科学、それに生物多様性の経験的知識、このあたりのことがらに10代のほとんどの時間を耽溺して時間を途方もなく使ったことのある青少年たちが現れればホント素晴らしい。
そんなこと、なんのためになるのか、という点で医師という資格のために理3を目指す青少年とはだいぶ違ってしまいますが、しかし次代の生物学はこのようななんのためか分からないけれども突拍子もない能力をもった若者が理論家になることをホント求めているのです。
かれらは可能性に充ち満ちたすごい理論的な研究者になれるでしょう。
しかも一生続く能力だと思います。