退職まぢかにして その2

今日は、学位の授与式。体育館の周辺は平素見かけない背広姿やあでやかな若い人達が沢山居る。当研究室からは4人が今春に博士の学位にたどり着いた。めでたい。修士学位取得者も4人。彼等はこれからもわたくしと共に研究して博士学位取得を目指す覚悟なので、ありがたい。申し訳ない気持ちもある。残っている学生は他にまだ相当数いるのだが、とりあえず、今日はめでたい。
博士号取得者も、もらった学位の価値を下げずに、人間として、社会的存在として大いに頑張って欲しい。父母のかたがたも何人か研究室までおいでになったのでお話しをする。末は博士か大臣か、などと言われた時代ではまったくないが、しかし5年(今年は一人9年かかった猛者がいる)以上苦しい修業時代を送って専門家になるためのライセンスを受けるのは大変意義がある、とわたくしは思う。後で思うと、苦しい時代が実は一番楽しい時代であったことに気がつくものだ。自分の為だけに、5年も6年も修行するなんて、なんて贅沢なのだろう。将来は、専門家として、広く社会にたいして、もしくは自分の狭い周辺でもいいから使命感をもって、精進して、仕事をして欲しい。

さて昨日の続きだが、わたくしの机の上に「人事異動通知書」なるものがあって、通知は任命権者K大総長何某と紙の下部に記してあり、氏名欄にわたくしの名前がある。異動内容欄には、K大従業員就業規則○○条○号により平成17年3月31日限り定年退職とある。つまり、定年退職とは、人事異動のひとつらしい。

それでは、4月1日からわたくしはどうなるのか。まだ何も紙切れは貰ってないので、4月1日まで確かでない。ただ、研究科長からのお話と、事務方からの連絡では、わたくしは4月1日より非常勤の研究員になる。わたくしの場合は日々雇用といって、働いた日数分だけ給与が出るものである。時間雇用よりは給与的にましだが、一年限りの雇用で、それ以上に更新されるかどうかは分からない。
研究科ではわたくしを特任教授と呼んでくれるらしいのであるが、大学当局は知らない話である。教授と呼ばれても同僚も居ないし教授会にでるわけではないので、わたくしとしては境遇にぴったりした非常勤研究員の呼称で十分である。
実は、給与がでるらしいと決まったらしいのは、この3月になってからで、2週間くらい前の話である。先月までは無給の(交通費もでない)研究員のはずだった。そうだとすると、これは大学にとって存在しないのと同じだと、事務方は言う。「先生何をやろうとこれから完全自由ですよ」といわれて、わたくしも憮然とした記憶がある。
無給には、わたくしも怒ったが、まあ仕方ない、これで一年間はいくかと、あきらめていた。だから、今ははるかにましな話である。給与が出れば妻に対しても、おどおどしないですむ。

それでは、4月1日よりわたくしはいったい何をやるのか。わたくしとしてはもちろん毎日研究室にきて、研究をしたい、それ以外に興味はないのだが。しかし、大学的に客観性のある表現をすれば、まだ一年間期間のある文科省の「染色体の継承メカニズムに関する特別推進研究(COE)」の研究代表者を務めることである。4年目だった昨年一年間のこの研究費は5研究室に対して3億数千万、それにK大本部に間接経費として1億円以上が入っている。かなり大型の競争的研究資金でありこの拠点型と言われる研究推進の責任がわたくしにはある。実際には、この研究で雇用してるたくさんの人達の社会的雇用責任もわたくしにはある。

わたくしはもう一つ21世紀COEと呼ばれている2億円以上の文科省の大型競争的資金の代表者でもある。世の中でかなり話題となったことのある、トップ30とかいう、研究資金である。こちらは個別の具体的研究をサポートするのでなく大学院生などの研究生活や能力向上に資金を使う目的で頂いたことになっており、交代の代表者をたてることが出来るので、わたくしの役割はこの3月で退職と同時にお役はご免となる。

しかし染色体継承のほうは、代表者交替はあり得ない。そういうことで、退職のことと、研究代表者続行をいかにして学内規則に抵触しないで出来るか、これが大変なことであった。わたくしに言わせれば大学当局には巨額な間接経費を入れてるので、大学が考えて欲しかった。しかし、それはないものねだりであった。色々な可能性を探ってきたのであるが、結果として、本当にくたびれ果てるような、難しい問題の連続にはまりこんでしまったわけである。その間の事情を詳しく書くことはまだ無理なので、やめておくが、ともあれこの4月から一年間は今までの研究室でもう一年間この研究費での研究生活を送れることとなった。土壇場で有給となったのだから、まあ良かったのだろう。

しかし、わたくしは正直まだすくなくとも10年間は現役で現場の研究をやりたいので、来年4月以降のことを考えねばならない。しかし、これは現状ではお先真っ暗である。このままでは来年4月になればすべての人への給与も払えず、研究費用の代金も払えなくなる。当然今の研究スペースから追い出されるだろう。
今日はだいぶ長くなったので、この続きはまた明日にします。

タイトルとURLをコピーしました