若い頃のことはよく憶えているのに、最近のことは忘れてしまう。これ年寄りの共通の記憶現象です。たぶん今の脳科学できちんと説明できるにちがいないです。
きょうはそういうことをいいたいのではなくて、若い頃に夢を持った問題が何十年も経てふたたび頭脳によみがえってくることです。これは純粋な脳内現象でなくて、やはり外界による刺激だと思いたいです。わたくし、学部生の頃は化学を否定して遺伝というものに非常なあこがれを持ちました。
これはつまり勉強することの大半が、生化学というか、化学や物理そして生物学でした。それでなかなか勉強できない分子遺伝学とか分子生物学とかにわくわくするような気持というかあこがれを持ったわけです。
ただ、化学と遺伝学を融合したような、化学遺伝学とかそういうものを目指していただのではなく、自分が勉強していたことの大半を否定してあらたなものに自分を染めていきたい、こう思ったわけです。
それが成功したのかどうか、ともあれ分子生物学というか分子遺伝学一筋できたように一見わたくしは外からは見えるのですが、でも内面は常に好きな化学の否定によって自分を保って来たことがあるのです。まあ、人間いろいろは出来ませんし。やはりやるべきことは一つだったし。そのあたりが述懐ですが、でも最近はそういう気持も無くなってというか、やはり化学のトレンドというか実力は生物学の世界に凄いいきおいで入りこんでいます。
質量分析機というあたらしいツールを手に入れて、化学を60歳の復活という気持で味わっているうちに、遺伝と化学を結びつけるとしたら?と自問自答しているうちに、とうとうある感覚を得るにいたりました。
なんだ、あのださい栄養の問題か、というところです。
栄養、学部生のころは栄養学の授業に出て(吉川春寿先生)、生涯かかわることはあるまいとしか思わなかったことを今ごろ真面目にやっているのですが、それはもちろん遺伝現象の根幹に近づいているなにかの感触があるからです。
50年経ってわかったことです。あの時、吉川先生はもうとっくに分かっていたか。そんなはずはありません、トレンディなコンセプトと思うのですが。でも意外にそうでないかもしれません。当時でも、常識だったかも。学問の蓄積はおそろしいですから。