サッカーの朗報にたいして、生命科学ではよろしくないニュースが出てきています。
わがくにゲノム創薬の第一人者といわれている京大の薬学の元教授が逮捕されたとのことです。
逮捕の理由はたいへん芳しくないです。
わたくしは,ゲノム創薬の日本の第一人者は東大の中村祐輔教授だとずっと思っていたのですが、この分野はいろいろあって第一人者といわれるかたが自薦他薦でおられるのかもしれません。中村先生は日本のこの分野の体制はまったくなっていないと宣言して、米国に行ってしまいました。大変残念です。日本のこの分野の政府筋としても総責任者と聞いていたので、わたくしもそのニュースに接した時には目が点になったものです。中村先生はその前に朝日新聞とかなりひどく対立していたので、日本のこの分野にたいするきつさに嫌気がさしていたのかもしれません。詳しいことは分かりません。なおゲノム創薬とは、遺伝情報にもとづいての適合した薬を創るというもので、あつらえ医療とかともいいます。
しかし今日ニュースになっている、京大の辻本元教授のケースはまったく違います。詳しい報道がなされています。報道が真実なら、極めて具合が悪いものです。東京新聞がかなり詳しくてその記事を丸ごと以下に示しておきましょう。
京大元教授収賄で逮捕 物品納入便宜の疑い
京都大への物品納入で便宜を図る見返りに、総額約六百二十万円のわいろを受け取ったとして、東京地検特捜部は三十一日、収賄容疑で京大大学院薬学研究科の元教授辻本豪三容疑者(59)を、贈賄容疑で東京都世田谷区の医療機器販売会社「メド城取(しろとり)」社長木口啓司(62)、同社元営業部長上田真司(53)の両容疑者を逮捕した。
逮捕容疑では、辻本容疑者は薬学研究科のゲノム創薬科学分野の医療機器や消耗品の調達で、納入業者の選定を担当。京大への物品納入にさまざまな便宜を図った謝礼として、木口容疑者から二〇〇五年三月、メド城取が契約しているクレジットカードを「自由に使って」と渡された。
辻本容疑者は〇七年九月~一一年六月、京都市内などでカードを三百七回使い、飲食代や電化製品購入代として四百七十六万円相当の利益供与を受けたほか、昨年八月までの二年間、家族で三回海外旅行に行き、代金計約百四十六万円を肩代わりさせたとされる。京大によると、メド城取は〇七~一一年度、辻本容疑者側に、ゲノム解析装置など少なくとも千三百三十二件、計約三億五千万円分の物品を納入した。
関係者によると、辻本容疑者は国立成育医療研究センター(世田谷区)の薬剤治療研究部長だった十年以上前から、メド城取に物品購入を装って代金を支払い、現金を管理させる「預け金」をしていたとされる。メド城取は辻本容疑者が京大教授に就任した翌年の〇三年七月、京都市に営業所を新設、京大への納入を伸ばしたという。
メド城取は昨年十月、民事再生法の適用を申請。成育医療研究センターに約三億八千万円の債権があることが明るみに出て預け金疑惑が浮上し、特捜部が捜査していた。
これはやっていることは、まさに「腐敗しきった科学者、研究者」というものであり、弁護の余地があるのでしょうか。
ところが毎日新聞の記事では、非常に弁護的な記事がでていて困ってしまいます。
これも丸ごと引用しておきましょう。
京大元教授逮捕:「研究の鬼がなぜ」同僚ら困惑
毎日新聞 2012年07月31日 13時34分
「研究熱心で、不正をするような人には思えない」。最先端の「ゲノム創薬」の第一人者が、業者から私的な飲食代や海外旅行代の肩代わりを受けていたとして、東京地検特捜部に収賄容疑で逮捕された。京都大大学院薬学研究科元教授、辻本豪三容疑者(59)をよく知る大学関係者は口々に「信じられない」と漏らした。
「『全ては研究の前にひれ伏す』と考えるような、猛烈に研究をするタイプだった」。京大の同僚たちは、研究者としての辻本元教授を「研究の鬼」と高く評価する。だが、「金(研究費)集めもうまい」と指摘する声も一部にあったという。
医療関係者らによると、辻本元教授は北海道大医学部の出身。91年に着任した「国立小児病院・小児医療研究センター」(現国立成育医療研究センター、東京都世田谷区)時代の業績が認められ、京大に教授として招かれたとされる。
京大では、病気に関連した特有の遺伝子の働きに着目して新薬開発に役立てる「ゲノム創薬科学」の講座を担当。10年3月にはノーベル化学賞受賞者の田中耕一・島津製作所フェローと共同で、がんやアルツハイマー病の治療法の研究や創薬の開発を進め注目されていた。【吉住遊】
不正をするような人にはみえないのに、このようなことをするとなると、納税者からみたら、高額研究費を使う生命科学の研究者のだれもがこのような行為の可能性があるとなり、いったいどんな私生活の金銭生活をおくっているのか、疑惑の対象になるでしょう。たいへんなダメージとなるのです。ただし研究費集めがうまい、という表現はたいへん気になるのでして、正当な理由でたくさん研究費を集めるのは名誉あることであり、それ自体悪いはずがありません。
さらに毎日新聞にはもう一つ記事があって、このようなことが起きる原因はなにかという解説記事のようなものがありました。
京大元教授逮捕:もたれ合いの構図にメス
毎日新聞 2012年07月31日 15時00分
京都大学大学院薬学研究科の元教授について、東京地検特捜部は「預け金」に象徴される業者のもたれ合いの構図に贈収賄容疑を適用することでメスを入れた。背景には「研究継続が可能な予算を確保しておきたい」という研究者、「物品購入などで便宜を図ってほしい」という業者の双方の思惑がある。
医学・薬学分野では大量の試薬を使った臨床実験を繰り返すため膨大な科学研究費(科研費)が必要となる。実験に使うラットを常時調達するだけでも年間数百万円の経費がかかるとされ、科研費の確保・運用は研究者の大きな懸案材料だ。そのため預け金は2、3年後まで見越した確保が可能になる魅力的な手段と言える。
だが、科研費の多くは国からの助成で、預け金に回すことは目的外使用に当たり、補助金適正化法にも抵触する。それでも業者がリスクを覚悟して預け金を管理するのは、高額な物品を優先的に購入してもらえるという期待があるからにほかならない。今回の事件もその延長線上にある。{毎日新聞}
まるでこれを見ると,研究者の多くが業者への預け金を行っており、研究の継続のためには、業者への預け金は起こってしまいがちなのだという研究者がい
う理屈のようにみえます。しかしそれは一般の研究者ではありません。腐敗しきった研究者しか弁護しないはずです。
20−30年くらい前にはひろく有ったかもしれない慣習でした。それにいまでも続く単年度の会計のもたらす硬直性と無駄が多くの困難を引き起こしていますので、一刻も早く是正は必要です。
でも、いまの日本、国民の税金を研究費に使ううえで、業者に一時的に隠密理に研究費をあずけるなど、前にも書きましたが、わかったら即刻辞職ものと思っています。いまはそのような時代だし、それくらいいまは厳しくしなければいけない、
いわんや業者からクレジットカードをもらったりして、個人のお金として使うなど、犯罪としても、昔も今もかわらず、ひどく破廉恥なレベルなのではないでしょうか。
この問題に、同情的な研究者が多いとは聞いていますが、もしもそれが本当なら、いい加減に生命科学者は目をさまさないといけない。
厳しく自戒しなければ国民の非難と批判が向かってくると思われます。