ニセ医師と研究室侵入者の生きがい

数千人の人々を診察したニセ医師がつかまったようです。
集団検診後のひとたちの診察くらいなら自分の知識でも、できるのではないか、と思ったそうです。
本人の動機というのは新聞などでは書いてありませんが、純粋にお金目当ての犯罪ではないとおもわれます。
なにかの記事での、このニセ医師稼業で稼いだお金は300万円にも満たないようでした。診察ひとりあたり千円くらいの収入と予想するとだいたいつじつまがあいます。
それじゃなぜ?たぶん好奇心とか自己満足とかそういう類のものではないでしょうか。医師を相手にすれば、診察を受けた多くの人たちは信頼のまなざしで見てくれて、いろいろ相談もするでしょうし、ニセ医師の診断にも素直に耳を傾けてくれるでしょう。
たぶんこのあたりの満足感とそこそこの収入が楽に入るということで、いっぺんやったら止められない、やみつきになったのでしょう。あくまでも想像ですが。
でもかなり危ない橋をわたったものです。ただ、集団検診時の医師はひとりひとり別々に座っているので、医師間の交流もほとんどないので、他の医師からどこの医大の出身とかも詮索され尋ねられないのでしょうから。医療関係の学校の講師もしていたらしいので、好奇心プラス趣味と実益の目的なのでしょうか。

それはさておき、ずいぶん前にも書いたことがありますが、教授になった頃、カバンを紛失したことがあります。電車の中で忘れたとながらく思っていたところ、数年後に松原署に呼び出されて、カバンは忘れたのでなくて、ラボの教授室に朝置いてあったのが盗難にあったことが判明しました。驚きました。貴重品は何もなくなぜ盗難?と不思議に思ったのでした。
そのカバンには実は雑誌(日本語)向けの原稿があったのですが、書き直したつらい記憶がありました。その、うらみ深い原稿も戻りました。何気なく、原稿をぱらぱらめくると、なんとわたくしの原稿にびっしりと赤字で添削がしてあったのです。意味不明としかおもえない添削文章がずらずらあるのでした。驚きました。
いったいなぜと、わたくしを尋問というか事情を聞いていた警察官に、この犯人はどんな人?と聞きましたら、大学(たぶん京大)に受かりたくて何年も受験して駄目だった青年だったのだそうです。
捕まったとき、車のトランクの中はいろいろな研究室から盗んだとおもわれる学術書や教科書でいっぱいだったそうです。
こういう青年の犯罪もなんだか、ニセ医師と一脈相通ずる,個人の情熱のようなものを感じるのです。
なんとなく「惜しいなあ」と感じるのです。
こういう人たちは社会のどこかで非常に役立ったかもしれない人だったのにと思ったりするのです。

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