昨日ちょっと、書こうと思っていたことです。
化学のきらいなひとがわたくしの研究室には群れてます。嫌いというよりは、そういうことを考えたことがないという人達です。
わたくしはたいへん好きでした。
いまでもおりおりに化学的なアイデアだそうだそうと、思っています。ただラボ内におしゃべりする人がわずかしかいません。
しかし、物の性質を知ろうと思ったら、化学をやらねばなりません。
そこで、単一細胞の化学などというと、化学嫌いな人も、ちょっと目が光ってきます。
つまり、1個の細胞を対象として化学をやるということです。ちょっと夢物語のように聞こえるかもしれませんが、かなり現実的な研究領域です。
チップとかmicroarrayとか微小な試験管が扱える時代ですから、極小の試験管と極小量の反応液をつかって、1個の細胞を使って、化学実験が出来るのです。
自分の手を使いませんから、実験のうまい下手もありません。
小さな穴の中に細胞をひとつずつロボットのような物を使って入れて、細胞をすりつぶせば、一個一個の細胞の性質をしるための、化学実験ができます。別にすりつぶさなくても生きた状態での性質を調べることだって出来ます。
いっぺんに10000とかそれ以上の細胞をひとつずつ調べることも可能です。
最初は簡単な性質を調べるのでしょう。
これに時間軸をかなりはやいものにする、つまり秒とかそれ以下、たかだか分くらいにすると、細胞のもっている揺らいでいる性質が1細胞のレベルで分かってきそうです。
だいたいわれわれでも、ふらふらするように、細胞の性質もふらふらしてるのです。ふらふらによって、いろんな大切な生き物の性質が生まれるのです。たくさんの細胞を、平均しては、そのふらふらぶりが見えてきません。個々に見ないと、個性も分からないし、一個の細胞の性質の変動もわかりません。
そうなると、測定機器が問題です。化学反応はモルという単位を基礎にしてますね。しかし、1モルというのは6x10の23乗とかいうとんでもない数の分子があって始めて到達する量ですね。ナノモルとかいってもまだ天文学的な分子数を扱ってるのです。ところが細胞の中にある少なめの分子は1000とかそれくらいの少なさ、DNAになったら1つとか数10、とかそんな数しか分子というか反応サイトがないようなものです。ですから、これまで化学者が得意にしていないむしろ分子生物学者が出来そうな化学なのです。
一個の一個の分子をカウントする、測定機器はありふれた物も含めて、もうすでにあるのですから、野心的な若者のような気分にさえなれれば、わたくしでも参入出来そうな分野なのが単一細胞の化学なのです。
そういうわけで、細胞一つ一つに化学のメスが入る時代がもう目の前だということを書いておきました。