ミニカーというおもちゃというか、自動車の縮尺したものがありますね。息子達が小さいときにときおり買った記憶がありますが、あれ、およそ何分の1の縮尺か、すぐいえる人は案外多くないかもしれません。例えば4メートルの長さの車で、100分の1の縮尺で4センチ長です。50分の1程度のものも含めてそういいう縮尺モデルの車たとえばダンプカーのミニカーを見て、本物の迫力を想像できるかです。なかなか難しい、そんなちゃちなモデルが本物とおもえるには相当な想像力が必要です。でもマニアなら、迫真的に想像できるのでしょう。
同様に、2万5千分の1の地図を見て、山登りとかハイキングコースの計画を立てるのも、それなりの期間の経験が必要でしょう。地図をみながら、どこで汗をかいて、どこで水を飲んで、どこで昼飯を食べるか、2万5千分の1の縮尺でも十分に考えられれば、かなり年期のはいった登山者でありハイカーでしょう。
実際のところ、数分の1の縮尺でも想像が難しいのは、絵画とか陶器とかしげしげと見たり、触って味わうものの場合です。平面的な写真では、立体的な感覚をえるのは難しいものです。しかし、小さな写真を見るだけで、その対象物がすごいものかどうか、分かってしまう人もいるのでしょう。
これが、わたくしたちの研究するタンパク質とかDNAとか分子レベルのことになると、縮尺とは逆の拡大の世界に持ってこなければなりません。分子というのは、よく言われるように、ナノの世界というので、1メートルの10億分の1の長さです。なかなか実感を得るのが難しいのですが、専門家としての訓練をすれば、分子的な想像をリアルにすることが可能です。
最近では、単分子観察といって、1分子の振る舞いを顕微鏡でリアルタイム(現実の時間感覚で)で観察も可能になっています。ナノの世界では、固体、液体、気体の状態によって、分子は動きがまったく変わります。また分子のかたちも性質もその構成によって著しく変わります。そういうものを自由自在に空想する能力が欲しいものです。
生命科学では、沢山の種類の分子を研究の対象にするのですが、発見の多くはこれらの分子になにか新しい性質が見つかるというものです。そのたびに、われわれは論文を読みながら、今自分のもっている縮尺と拡大の世界の中にはめ込んで、理解しようとするのです。
豊かな情報量と正しい拡大(縮尺)観を持っている人は、未来的なそして創造的な思考をするのに有利です。