考えてみると、わたくしが学生時代とかもうすこし年をとった30才くらいの頃でも捏造というのはありました。
例えば、山陽地方の医療機関での研究で、人体がセルロースを作るという、すごい話しがありましたが、これは患部に脱脂綿だかなにかを研究補助スタッフだかが入れたとか、そういうことがありました。雑誌の科学か自然かで記事にされていたような記憶があります。また高名な遺伝学の教授の研究室で、教授の理論にあうようにやはり実験補助者が実験生物を細工したとか、聞いたことがあります。絵の具でペイントしたとか。そういう話しはなかなか真相を客観的に知ることは難しくて、事情通らしい人が話すのを興味深々きいて、それを記憶するのですから、記憶間違いもあるし、学術情報のように文献を探して情報を得ることもできません。
しかし、若いときに聞いた話しは強く記憶に残るもので、その後の知識の基盤になるものです。大学院生だったかの時に聞いた、大生化学者リップマンの晩年のラボで起きた捏造事件は日本から留学していた先生達から直接聞いたことがあるので、いろいろ参考になりました。偽造者はそのことが分かりそうになったときから、ラボ内の多くの試薬や液体の中にいろいろなものを混入させてラボ全体のデータのでかたがおかしくなるようにしたとか、聞いて怖いものだと思ったものです。捏造事件は研究主宰者に大きなダメージを与えますが、もちろんラボ内の同僚にも大きなネガティブな影響を与えるものです。
研究室主宰者がデータを捏造したケースはスイスの大学で一世を風靡した研究者のケースがあります。もう20年くらい前になるのでしょうか。ポスドクに訴えられて、破綻しましたが、現在も捏造を認めてないとかきいています。わたくしもいちどか二度この人から手紙をもらいました。自分の結果はやはり正しいことが実証されたというような趣旨です。しかし、圧倒的な証拠は彼が黒であることを示し、彼は職を失っています。がん関係では、Tさんに教示されたのですが、最近かなりひどい捏造をした著名ながん研究者が職を失ったそうです。他に日本でも、20年くらい前にありますが、これは当人が厳密には主宰者でないケースでした。
研究データの捏造についての組織的、社会的対応は最近かなり進歩しているようにも思えます。
しかし、いっぽうで対応が厳正と表現するのでしょうか、きびしすぎたりしてる場合があるかもしれません。
研究者の個人レベルでの対応でことがすむのに、組織ぐるみで対応したりしてしまうがゆえに、関係者の疲弊が激しくなる問題点もあるような気がします。
しかし、個々のケースで詳しく述べないと、この点は誤解される恐れがあるので、このあたりでやめておきます。
ただ、研究室主宰者のデータ捏造は、罪深さの次元が違うので、まったく別なものとして論じないといけないと思うのです。だいたい研究室の主宰者がデータ捏造をするというのは、かつてはコンセプトしてなかったものです。しかし、いまではというか杉野教授事件以来、まったく違ったかたちで見る必要が出てきた感じがします。
わたくしも、杉野教授事件についてはなんらかの責任があると強く感じています。ただの一度も疑うどころか、海外での学会発表などでは、孤立しても頑張っているなあ、と応援したい気持でいたのです。いまから思えば、という2,3のヒントになるような出来事は周辺でありましたが、いちども詳しく見よう周辺に聞いてみようという気になったことがありませんでした。しかし、今になると、反省することがいくつかあるのです。
追記:ノーベル化学賞、Roger Kornberg博士さんとの京都新聞の記者さんの連絡がありました。とてもいい決定だと思います。この春彼にあって、直々に30分レクチャーを受け、その素晴らしい進展ぶりに心から感心したものです。贅沢な経験でした。
父息子、もらうなんてすごいとしかいいようがありません。親子というのは、記憶にケースがおもいだせません。ブラッグは親子でしたか?