雪が降りました。寒波襲来です。沖縄のT君夫妻が結婚あいさつに今晩くるとかですが、寒くて気の毒です。次男も一日はやく帰省するとのこと、あしたからは娘の家族や長男もくるとのこと、賑やかになるでしょう。
多比良教授と杉野教授がそれぞれ東京大学と大阪大学によって懲戒免職されたことについてなにか書かねばと思いつつ、気持が重いのです。また、松本早稲田大学教授も最近退職されたという記事を見ました。
実は分子生物学会が最近研究倫理委員会をたちあげましたが、わたくしがこの委員長になってしまった経過があります。それで、「休憩時間の」話題になりにくくなりました。この件について書くことがよく考えねばならないような状況になってしまいました。
会長名ででた委員会のたちあげアナウンスは以下のサイトで読むことができます。
研究倫理問題に取り組む学会のアプローチが理解されるとおもわれます。
http://wwwsoc.nii.ac.jp/mbsj/ethical_committee.html
多比良教授と川崎助手のことにつきましては、大学側は捏造の絶対的証拠をつかむことができなかった、しかしこのお二人の研究のやり方はあまりに不誠実な態度であり、誤った結論の論文を公表することにより、東京大学の名誉と信頼を著しく傷つけたというもので、そのことを理由に懲戒しております。お二人は、懲罰が重すぎるという理由でなんらかの法的対抗措置をとるかもしれない、新聞にありました。
いっぽうで、杉野教授のケースは捏造には確証がありました。いくつかの論文であることを大学側はつかんでいますが、教授はいまだに捏造の一部しか認めず、論文を撤回したのもその一つだけと聞いています。大阪大学も懲戒の理由に教授が捏造行為をするという行為自体が懲戒の対象になることを指摘してますが、同時に大学の名誉を著しく傷つけたことも理由にしています。
ここから先はもちろんわたくしの個人的意見ですが、懲戒免職は予想された懲戒だとおもいます。
大学がこのような悪質な捏造問題に乗り出せば、結論としての懲戒はこのようなレベルのものになるのは予想されることでした。多比良教授のケースは自らが手を下した捏造でもないし、大学側も絶対的な確証は得られていない、と言ってますが。かれの科学者としての不誠実な態度はまったく信じがたいレベルにあるおもいましたし、このレベルの懲戒はしかたがないと思われます。
しかし、ここでよくかんがえておかねばならないことがあるとおもいます。
この捏造論文が研究者のコミュニティーを離れて、大学当局の手に渡って、そこで対応が行われたことです。
捏造論文の多くは、関係研究者が事情を十分に説明をして、それで終わるケースがこれまでは多かったのでした。しかし今回は研究の主宰者自らが捏造するという未曾有の出来事や、研究室の主宰者が何度にも渡る疑義について誠実に対応をまったくしなかった、ために研究者コミュニティーの「自治」を離れてしまい、大学当局という本来は捏造問題に対応するには不向きかもしれない組織が出て来ざるを得なかった。またひとたび「当局」が出てくれば、処分はそれなりにきびしいものになりがちです。
特に大学の名誉と信頼を著しく傷つけたという理由が出ることからも、その点は明らかです。
つまり、捏造したもしくはその嫌疑をかけられた人達の対応一つで本来は違ったかたちで結末を迎えたかもしれない出来事が、大学の名誉と信頼を著しく傷つけたということで決着を見てしまったのです。
かれらのふたりを教授にした人達から見れば、晴天の霹靂であるでしょう。しかし、人事で結果責任を追及されるかもしれないことになってしまうのですね。多比良教授のケースは、東大に行く前からとかくの噂があったことはわたくしも前に書きました。杉野教授にしても、詳しく書けませんが、捏造行為がかなり昔に遡る可能性が指摘されています。そのような情報をしらずに枢要な職につけさせることの結果責任は今回の行政改革大臣の辞任にもありますね。つまり、名誉と信頼を傷つけると言うロジックになると、なぜそのような人達を教授にしたのだと、それは誰の責任だという風に、捏造の本来の問題からずれてしまう恐れがあるのです。
しかもマスメディアにここまで書かれてしまうと、かれらへの社会的な懲罰はとてつもなく重いと感じられます。
ですから、このような経過をたどると、もっとなんとかならなかったのか、と思わざるを得ないのです。実際にはそれはほとんど不可能だったろうと思いはするのですが。
大学当局が乗り出して決着することの苦い味は関係者、当事者にはよくよく分かっているはずなのです。