血液というと、さらさらとかドロドロとか言う表現でよくいわれますが、自分の体内に約5リットルの血液があってこれが非常に短い時間(数分と聞きます)で全身を循環しているというのが素朴な驚きです。
赤血球はこのうち約半分の容積を占めて、これも全身を循環しているのです。細胞としてはきわめて省略したもので酸素を運ぶ以外に能がないように言われがちですが、細い毛細血管を円盤状から伸長して窮屈なところを迅速に通過するさまを映画などでみますとこれもまたまた素朴に驚きます。
生まれるずっと前から心臓が拍動しだしてこの血液の全身循環を起こし、人生の終焉までくり返し循環しているのですから、この心臓の能力にもまたまた素朴に驚くのです。
脳とか筋肉にある細胞の栄養は基本的に血液からもらうわけですから、血液のなかには沢山の栄養成分(の元もふくめ)があるわけです。
このあたりは教科書を読めば書いてあるので、ふーんと感心するわけですが、いざ血液を対象になにか新しい研究しようということになれば何をやったら新しいことができるか、そんな簡単に見つかるわけがありません。
わたくしはある時期から血液を対象に研究を始めようと思っていました。
血液のなかの赤血球を対象についでに血漿というか残りの部分も調べようというものです。なぜそんなことを、と聞かれれば、血液がいちばん頂きやすい、ということにつきます。尿でもいいじゃないですか、髪の毛じゃ駄目なんですか、と聞かれます。
いけるかもしれないが、とりあえず赤血球と血漿がいいだろうと決めました。いまさら何か新しいことが分かりますか、と疑わしそうな顔をする人たちが大半です。
でもだからいいのです。人がやらないことをやるというか、もうとっくに済んでしまった炭鉱のトンネルをもう一度掘りかえすようでも、新しい考えでやれば分かることが色々あるはず。
わたくしがやりたいのは、長寿の研究なので、髪の毛では長寿でも試料がもらえない人もいるし(冗談ですが)、尿もいいかもしれませんが、ちょっともうすこし複雑そうなものを対象にしたい。
研究手段として唯一の飛び道具はメタボローム解析という低分子の化合物をいっぺんに沢山定量的に測定する手段です。
あとはわたくしの半世紀にわたる研究経験で、まあそのあたりには絶大な自信というか自負がありますので。そんなこんなでもう2年以上経ってしまってそろそろ成果を世に問わねばならない時期となりました。
この研究は医学というよりは化学生物学で、遺伝学を使えないので能力の半分も使えませんが、でも執念でやっているうちに段々面白くなって来ました。
わたくしは皆さんが毛嫌いするつまらないという赤血球が非常に面白いと思っていて、しろいろ秘策もあります。でも秘密です。
病気よりは健康な人たちの個人差にいちばん興味があるのです。病気よりは健康のほうがずっとおもしろい、このへそまがりがわたくしが今日まで研究を続けられた原動力なのです。
つまり病気で差がでるのは当たり前なので、差が出そうもないところに差を見いだして、新しい人間の化学生物学に挑戦したい。あたらしい人間像をつくりたい。
まあそんなところです。病気は優秀なお医者さんにまかせればいい。
しかし健康人の研究はどうも皆さんの研究対象になりにくい。
まあおおぼらのように聞こえるでしょうが、今年の最後の日なので風呂敷をほんのすこし拡げてみたいとおもいました。